オリンピックを機に、日本は観光立国になれるのか?
オリンピック後に、日本の観光産業がどのような方向に向かうかは、インバウンドに関心がある人であれば、誰しも考えていることだと思う。
先日、日本政府観光局が、2017年の来日外客数の推計人数を発表した。昨年1年間での訪日客は2900万近く。オリンピックに向けての訪日客数を上方修正したという話もうなずける。
アジア圏からの訪日が9割以上を占めているが、欧米からの人数も右肩上がり。驚いたのはロシアからで、絶対数は中国・韓国の100分の1とはいえ、なんと前年比40%増。今後期待できそうだ。
しかし、観光客が増えれば増えるほど、心配に感じることがある。
それは、日本人のどこまでが、海外の現実を認識しているかということだ。
日本に観光客が増えたからといって、単純に「日本が世界で人気」「日本のものなら売れる」と考えているのであれば、それは間違いだ。オリンピックは確かにチャンスではあるが、同時に、今まで以上に厳しい目で外から日本を見られることを、忘れてはならない。
国産が一番!の幻想
日本産が一番いいというのは、海外のモノをこの瞬間、自分の目で見ていない人の幻想でしかない。
確かに日本には素晴らしい伝統の文化が沢山あるし、私も古き良き時代の日本の産業は守っていきたいと考えている。
だが、日本産の技術がいかに素晴らしくとも、海外と比べて優れているとは考えるべきではない。海外にも日本にもそれぞれいいものがあって、その時々で何がよいか選択し、使い分けるのが現代の考え方だと思う。
「やっぱり日本産はいい」などという考えは、非常に危険だ。
どちらもいいことを認めた上で、何を打ち出せば国際市場で生き残れるかを、考えるべき時に来ているのが現実だ。
クールジャパンについても同じことだ。
日本がすべての聖地のような認識を持っているお偉いさんは多いが、そんな考えは時代おくれで、それぞれの国が独自の発展を始めている。
だから、日本産であることが差別化のポイントではないことを認めて、どうすればグローバルマーケットを見据えたシェアを取れるかを考えるほうがよい。
私自身、趣味の分野でサブカル方面の方々と長年お付き合いがあり、国内外のイベントのコーディネートのお手伝いをすることもあるので、あえて言わせてもらう。
日本のアニメやマンガって確かに海外でも人気が高いけれど、長期のビジネスモデルとしてなりたっている形態はごくわずか。
一番のコアになっているクリエイターや制作現場は、昔と変わらずのペイの安さが問題になっている。
そもそも作品を生み出す立場の人間がお金を取れていないのに、国として見た時に、景気を上向かせるほどの利益(直接的・間接的問わず)を上げられるのだろうか。
ともかく、もはやオリンピック開催国の立場から逃げることはできなさそうなので、今考えなければならないことは、いかにオリンピックを踏み台にして、その後の景気を上向かせるか。
私はずっと田舎にいたのでバブル景気には正直馴染みがないのだけれど、1990年前後から頻繁に海外と日本を往復するようになって、この四半世紀での世界における日本の転落っぷりを目の当たりにしている。
日本は観光立国になれるのか?
モノづくりだけで国を立て直すのはもう無理があると思うので、こうなったら観光立国を目指したらいいのでは!と考えるようになった。
そうなると、本当にオリンピックが最大にして(もしかしたら)最後のチャンス。
オリンピックを見た海外の方々に、「お!日本って旅行したら楽しそう!」「ゆっくり時間を過ごせそう」って思ってもらえれば、しめたもの。
しかし、まだまだ観光立国を目指すには、至らない部分が目に付く日本なのである。日本人の私ですら「旅行しにくいな」と思う時があるので、海外からの方にしてみれば、何が何だかわからないことも多いのではなかろうか。
海外の方にとって、日本を旅行しやすい国として認定してもらうためには、少なくとも、以下の部分についての配慮が欠けていると思う。
■どこでも日本式を押し付けること
→ 特に、和式の旅館や飲食店。夕食時間が18時~19時で21時には就寝前提というのは、特に欧米ではあり得ない。
1泊なら楽しんでくれるかもしれないけれど、リピートや長期滞在を当て込むのであれば、素泊まりのプランを作るとか、夜中まで開いているバーカウンターを作るとか、日本の常識を覆すような海外の旅行客向けのプランが絶対必要。
特に、ナイトスポットが限られている地方なら尚更だ。食事の時間を早くするのであれば、食事後に夜景を楽しめる場所を紹介するなどして「まだまだ見足りない」と思わせ、一泊限りで終わらせない仕掛けが必要だ。
■ローマ字表記が少ないこと
→ 都市部では増えてきたとはいえ、全国的に見たらまだまだ少ない。どこに何があるのか、まったくわからない。
レストランのメニューやスーパーの食品ラベルも、日本語表記しかないものがまだまだ多い。
■英語を話す人材が常駐していないこと
→ 私は英語が話せればいいという考えには反対である。生きていくうえで支障がないのであれば、日本語しか話せなくても構わないと思っているし、英語ができなくてもその他の言語が複数できれば、海外に出ても生きていけると考えている。
だが、観光業だけは別だ。海外からのお客様を積極的に招き入れたいのであれば、英語でのコミュニケーション能力があることは必須だ。
英語圏以外を旅行していると、これがいかに重要なポイントかがわかる。サービスと味のレベルが同じであれば、英語がまったく通じない店よりは、最低限通じる店で食事することを選びはしないだろうか?
私は仕事柄、何でも面白がって食べるので、あえて英語が通じない店を選ぶことも多いが、大抵の観光客はそうではないはず。特に、何らかのリクエストがあるならば、必ず言葉が通じるほうを選ぶ。
しかし、各店舗に英語を話す人材を配置するというのは、今の状況では現実味に欠ける。
となれば、担当エリアのトラブルに備えて、英語ヘルプデスクを自治体が設置しておくというのも有効ではないだろうか。もちろん、ヘルプデスクの人材はボランティアに頼るのではなく、きちんと雇用するべきだ。
海外からの旅行者でにぎわう世界の観光地は、基本的にこれらの点をクリアしていると思っている。
逆に、これらをクリアできれば、旅行のリピーターや口コミが広がるのではなかろうか?
郷に入っては郷に従えは大事だと思うが、短期旅行の海外からの旅行者に対してまでそれを強制するのは酷。
今の時代、観光で利益を上げようと思ったら、世界的なスタンダードに合わせないと生き残れない。
この部分の戦略をしくじると、観光の部分でも大幅に他国に後れを取って、この国は本当に打つ手がなくなってしまう。
ハワイ旅行の人気の理由
余談だが、ハワイがなぜ相変わらず日本人に人気があるのか、考えたことがあるだろうか?
そこそこ治安がよくて、のんびりできて、困った時は日本語が通じるからというリサーチ結果を読んだことがある。
- 「言葉が通じる異国」
- 「肩ひじ張らずに行ける異国」
- 「自分のペースでゆっくり過ごせる異国」
- 「7時間以内で行ける異国」
- 「3泊5日あれば楽しめる異国」
- 「子供連れ、高齢者連れでも旅行しやすい異国」
これらのキーワードが、日本の今後のインバウンド政策にとって参考になると思うのだが、どうだろうか。
かくいう私の老齢の父も、「もう飛行機に長時間乗って疲れて帰ってくるのはうんざり。でも、ハワイはもう一度行ってもいいかな」と言っている。
赤ちゃん連れから高齢者まで、もう一度行ってみてもいいかなと思わせるのが、真の世界の観光地である。
(2018.1.31 Naoko Tamura)
※半年前に別ブログで書いた記事を加筆修正しました。食品の貿易実務の他、インバウンドや海外関係の取引についてもコンサルも承っております。お問合せフォーム、もしくはメールでご連絡ください。